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「これでよし、と」
今日も私は稽古場の入り口に
"それ"を置く。
殿たちが出てくる足音がして
すぐに茂みに隠れる。
「若様、最近また調子を
戻されたご様子ですな」
「んん、まあな。
お!今日もあるな!」
「若様!
また疑いもせずにそのように
食べてしまわれては…
毒でも入っていたらどうされる!」
「大丈夫、大丈夫」
殿はおいしそうにトマトをほおばる。
殿、嬉しそう。
良かった!
「幹成様!!」
「咲姫」
「私、お食事を
持って参りました!
どうかお食べください!」
「ああ、いいよ。
俺にはとまとがあるからな」
「そのような…
誰が置いたのかも
わからないようなものを…」
「いいんだよ。
犯人はわかってるから」
そう言った笑顔の殿と
目があったような気がした。
殿はそのままお城の方に
戻っていく。
堂々と会えなくたって、
話せなくたって、
心は通じている。
そんな気がして
小さくガッツポーズした私の方を、
咲姫がじっと見つめていた…。