殿はまたあたしに
向き直ってそう言った。
















「ちょ…
ちょっと待ってよ。
意味わかんない。
さよならって…」

「近々大きな戦があるんだ。
先ほど父上から告げられた。
オレは国を率いて戦う。
次の満月の日だ。
それまでは準備を
しなくてはならない」

「そんな…

じゃ、じゃあ、
戦が終わったら…

戦が終わったら、また、
遊びに来れるように
なるんでしょう!?」













殿は何も言わなかった。





ふいにあたしの
髪に手をのばす。













「このかんざし…
よく似合っているな。
モスケか?」

「!!

……浴衣は…?

殿のために着たんだよ…?
浴衣は…誉めてくれないの?」

「…モスケはモエを
ちゃんとよく見ているな。

オレも安心だ」













…うそ。



安心してるような
顔じゃないじゃない。





無理して笑顔なんか
作らないでよ。












…それでも殿は無理して
笑わなければならない。





あたしとさよなら
しなくてはならない。









昼間のお姫様の
言葉がよみがえった。












…つまりは、



そーゆうことだ。
















あたしは来た道を
Uターンしてまた
走り出した。



視界の端に殿の悲しそうな
笑顔を残したまま。













やっぱり殿は追いかけて
来なかった。