『月夜、なんで赤くなってるの?…真っ赤なリンゴだこと♪』
「…怒るぞ?」
『やーだねっ!』
いつだったか、だいぶ前に俺が姫梨に言った言葉を、思い出したように口にされた。
イタズラっぽくウインクした姫梨にほんの少しイラッとして、ワントーン声を落としたのに、姫梨はひるむことなんてなくて。
思いっきりべーっと舌を出して、走り出した。よっぽど機嫌がいいらしい。
狂わされる調子さえも心地よく感じるのは、姫梨だから。
このままずっと、そばにいられるといいな。…いや、たとえ姫梨が離れていったとしても、俺ははなさない。
「…俺から逃げられると思ってんの?」
『んー…無理かも。』
何度だって、こうやってつかまえる。抱きしめて、この手で優しく包み込むんだ。
そしてきっと…2人で笑い合う。