知らせを受けて病院へ駆けつけた父と母は、その時兄が身につけていたものを渡された。

車の鍵

携帯電話

革の財布


財布の中には数枚の千円札と小銭。

その数日前、ふらりと実家を訪れた兄に、母は何かを察したのだろう。


─たまにはガス抜きしなさいよ─


そう言って壱万円札を一枚、その手に無理に滑り込ませたそうだ。


兄はどんな気持ちで、どんな想いで、いつ何に使って、その壱万円札を崩したのだろう……その時の兄を想い、千円札と小銭を前に母は泣いた。


─親より先に逝く程の親不幸は無いんだよ─

そう言って母は怒った。




全て、後になって母から聞いた事だ。