兄は去年、自殺を図った。
桜の花が散り終わった頃だったと思う。
その前後の経緯を此処に詳しく記すつもりは無い。
とにかく兄は
死の淵から
死の深淵を覗く程の地獄から
私達の元へ帰って来たのだ。
目が覚めたとき兄は、幼い子供のように母にすがりつき、声を上げて泣き続けたそうだ。
意識を失っていた間中、もがいてももがいても抜け出す事の出来ない泥沼の中で、苦しみさまよっていたのだという。
泥沼の中で最後に見たものは、すでに鬼籍に入っており、エコヒイキと言える程兄を溺愛していた祖父の、見た事も無い程の怒った顔だったそうだ。
後になって、兄は母にそう話したという。