2件目で残りの機材を降ろした後、Y駅の近くで兄を降ろす事になった。
そこからすぐの、トラブルのあった現場へ向かうようだ。
─ノンビリ休んでたとこ悪かったな。
助かったよ。
そう言って兄は降り際に、運送料だと言ってくしゃくしゃの千円札を3枚、私の手に滑り込ませた。
─要らないって。
気分転換にもなったしさっ
─バーカ、いいから、ガス抜きの足しにしろって。…少ねえけどな。
兄は素早く車から降り、片手をヒョイとあげて、振り返る事なく急ぎ足で歩いて行った。
気前のいい兄は昔から、たまに顔を合わせるとウマイもんでも食えと、万札を握らせてくれたものだ。
私は、くしゃくしゃの千円札をコートのポケットねじ込み、兄の背中が見えなくなるまでバックミラー越しに目だけで見送ってから、車を発進させた。