1件目でひとつ機材を降ろした頃、ようやく電話は落ち着いたようだ。


─相変わらず大変そうじゃん?


缶コーヒーを投げて寄越した兄に軽く話しかける。


─まあなァ
オマエこそ、昼間家に居るの珍しいじゃん。

何となく会社をサボった理由から始まり、会社での立場的な重圧やくだらない人間関係の事など、つい愚痴が口をついて出た。


久しぶりに話をする妹が、意外にも社会的な事を対等に話す事に、兄は少し驚いたようだった。
兄の中では、いつまでたっても私は甘ったれで泣き虫のチビ助なのかも知れない。


─仕事してればさ、ストレス無くす事は出来ないけどさ。

─ガス抜きはしろよ。
ガス抜きしてどこかで発散して、甘えるとこは甘えて、頼る時は頼れよ。
溜め込んでゆくとな、自分一人で溜め込んでゆくとな、本当にヤバいぞ。
ヤバい事になるぞ。
ガス抜きだけは、しろよ。


兄の言葉は、ずっしりと音を立てて胸の奥に落ちて行った。