珍しい人から電話がかかってきた。
風邪気味を理由に会社をサボり、久しぶりに午前中特有の陽射しを堪能していた時の事。
─オマエ、今ヒマ?
ちょっと運転手してくんない?
電話の主は、三歳離れた兄からだった。
聞けば、駐車違反を繰り返したあげく、度重なる呼び出しも無視し続け、とうとう免停をくらったのだと言う。
仕事でどうしても届けなければならない機材があるのだが、会社の者は車ごと出払っており、コッソリ実家の車を拝借しようとした所を母に見つかり、いい歳をしてこっぴどく叱られたのだそうだ。
兄の家と私の家は、歩いて2分程の距離にある。
義姉や甥・姪とはしょっちゅう行き来しているが、兄とは滅多に顔を合わせる事がない。年に数回程だろうか。
特別仲が悪い訳ではない。
兄妹とはそんなものである。
どうせ風邪気味というのは仮病なのだ。
私は快く承諾し、これまた歩いて3分程の実家へと向かった。