仕事中ピリリと携帯が鳴った。



「ユリちゃん、携帯鳴ってる」


「ごめん、いま手離せないの。誰?」


「…ヤスって人」



同僚のナオのそれを聞いた瞬間、持っていた資料をバサバサと床にばらまいてしまった。



「あーもう何してるん」


呆れたようにため息をつくと拾うのを手伝ってくれた。


「…ごめん」


その間もずっと鳴りつづける携帯電話。


「電話出なくていいん?」



その問いにはうまく答えられない。
心では出たくてどうしようもないのに体がそれに必死で抵抗している。



「もう切れてまうで」



もう我慢出来なくなって携帯の通話ボタンを押してしまった。




《もしもしユリ?》


携帯から聞こえたのは忘れもしない。
愛しいあの人の声だった。



「――うん」



久しぶりと呟く優しいその声に鼻の奥がツンとなった。


「――どうしたの?」


《明日そっち帰るから夜会えない?》