「そうなんですか。何はともあれ、よかったですね」

 智先輩は子猫――ルカを抱き上げると、ゆっくり体をなでた。

 ルカはずいぶんな懐きようで、気持ちよさそうに喉を鳴らして丸くなる。

 智先輩の優しそうな目もとを見て、間違いないと確信した。

(あのときの人だ……!)

 柔らかく跳ねた、色素が薄く短い髪。校舎の窓から見下ろした姿。

 もはや疑いようもなかった。あのときの彼が目の前で笑っている。

 胸がよくわからない熱さで一杯になった。

「それ、もしかして絵? 見てみてもいいかな」

「あ、はい、どうぞ」

 脇に丸めて置いた絵を、私は慌てて差し出す。

 智先輩は私の絵を広げると、まぶしそうに眺めた。

 そういう風な表情で見てくれるのならば、描いた側としてはとても嬉しい。

 智先輩が身にまとう空気は、とてもやんわりしていた。

 どこか輪郭がぼやけているような印象すら受ける。

「――君の名前は何ていうの?」

 ボーっとしながら智先輩を見ていたら、いきなり話しかけられて焦った。

「えっと、西口 友絵です。芸術科の一年A組です」