私は子猫の頭を優しくなでてやった。

「よしよし……親はいないの?」

 私が尋ねると、子猫はまん丸い瞳を丸めて首を傾げる。

 どうやら迷子らしい。

 私が戸惑っていると、飼い主らしき人の低めで穏やかな声がした。

「ルカ!」

 子猫はその声がした方へ、嬉しそうに駆けていく。

「大丈夫かな? ルカが迷惑かけた?」

 歩み寄ってきたその人を見て、私はハッと息をのんだ。

 柔らかそうな髪には、確かに見覚えがある。

 この学校のブレザーにズボン。胸元の校章は緑だから、三年生だ。

 今どき珍しく、ネクタイをきっちりとしめている。

 背は高くて、どことなく細長いように見えた。

「探していたんだよ。見つかってよかったー。ありがとう」

 嬉しそうな声を聞いて、思わず心臓が飛び跳ねた。

「い、いえ、私は何もしてないです」

 なぜか知らないけれど、胸の鼓動が高まる。

 普通科の三年生だという彼は、都築 智と名乗った。

 さとる先輩、と私は口の中でつぶやく。

「ここ、フェンスに穴が空いているんだ。だから飛び出して引かれてたらと思うと、気が気じゃなかったよ」