歩きだした智先輩を私は呼び止める。

「あの、先輩? どこに行かれるんですか?」

 智先輩は振り返ると、柔らかく笑った。

「アスカちゃんのところ。ちょっと説教してくるよー」

 アスカ先輩に説教される智先輩は頭に思い浮かべられても、その逆は想像すらできない。

「説教、ですか」

 智先輩はアスカ先輩のイトコで、昔からの知り合いだ。

 仲が悪そうに見えても、お互いに思うところはあるんだろうか。

「うん。りっくんはしばらくしたら来ると思うから、校門で少し待っててくれるかな」

 どうやら智先輩の友人の名は、『りっくん』というらしい。

 一体全体どんな人なのか不安だった。

 智先輩を見送ると、私は大きなため息をつく。

 まるで何もなかったみたいだ。

 智先輩の態度が普通過ぎて、私は困惑してしまう。

 それでも言われた通りに校門前を目指した。

(ウザイ、か……)

 アスカ先輩から言われたことを思い返して、心がスッと凍てついていく。

 手に持ったホットミルクの温かさだけが確かだった。

「ね、あの制服どこの学校のだろ?」