「どうして……? 私、本当にアスカ先輩の絵が好きだったのに。アスカ先輩は自分の絵が好きじゃなかったんですか?」

 こらえきれなくなった涙がこぼれた。私は震える声で問いかける。

「私が憧れていた先輩は、どこにいっちゃったんですか?」

 アスカ先輩は不愉快そうに眉をしかめた。

 私に近寄ると、耳元でささやく。

「ははっ……、あんたが憧れていた野間野アスカは、あんたの幻想なのよ。今ここにいる私が私」

 悪意に満ちた声を聞いて、背筋に寒気がはしった。

「謙遜してりゃいいと思ってんの? 才能があるくせに自分なんかって卑屈になってんの、みっともない。自分の憧れを私に押しつけて――あんた、ウザイよ」

 心がぐしゃりとつぶれる。

 アスカ先輩の顔を直視できなかった。

「じゃあね。言うなとは言わないわ。誰もあなたの言うことなんて信じないでしょうから」

 ズタズタでボロボロの心。でも後悔したくなくて、私はアスカ先輩に問いかける。

「じゃあ先輩は、何のために絵を描いているんですかっ?」

 アスカ先輩の絵に会って、私の人生は変わった。