「ただいまぁー」

「お邪魔します」

その夜、優兄ちゃんとお姉ちゃん夫婦が我が家にご飯を食べに来た。

優兄ちゃんのおばさんも揃って、賑やかになった。

お姉ちゃんは出産準備のため来月、うちに戻ってくる。

だけどお母さんと私は昼間仕事でいないから、昼間はおばさんのいる優兄ちゃんちで過ごすという。


「それにしても楽しみねぇ、早く孫の顔がみたいにわぁ。ねぇ、由美子さん」

「そうねぇ、美菜子が母親になるなんて、まだ信じられないけどね」


おばさんは嬉しそうに言った。


お母さんは奮発してお寿司なんか頼んじゃって。

テーブルには、お姉ちゃんの好きなものばかり並んだ。
優兄ちゃんの好物の肉じゃがもある。


私はビールやお茶をテーブルに運んだ。


「他に必要なものはないかしら?

ベビーベッドは買ったし、ベビーカーも…あ、タンスは?タンス!」

「お義母さん、もう置く場所ないですよ〜」


お姉ちゃんはいつのまにか、おばさんを“お義母さん”と呼ぶようになった。

「親父はまだ仕事?涼は?まだ大学から戻らないの?」

優兄ちゃんがおばさんに向かって聞く。


「お父さんは今日は遅くなるって。

涼は、後で行くって言ってたから置いてきたんだけど…

咲ちゃん、ちょっと呼んできてくれる?」

そう頼まれて、私はしぶしぶお向かいの涼の家に向かった。



「涼ー、優兄ちゃんたち来たよー?」


玄関先で、そう声をかける。

だけど家の中から返事はなく、静まり帰っていた。


もしかして寝てるとか…?


そう思って私は涼の部屋に向かった。

「涼?開けるよ?」


2回ノックして、ドアをゆっくり開ける。



“あれ…いない”

部屋に涼の姿はなかった。

“お手洗いかな…?”


私はゆっくり部屋の中に足を踏み入れる。


前来た時より、散らかっていた。

よくわからない参考書とか、ファイルとか…。


見ても私が分からないものばかり。


やっぱ勉強、大変なんだろなぁ…


そっとベッドに寄りかかるように座りこむ。


ベッドの下……まだあの雑誌あるのかな…。

あの雑誌見て、涼はどんな気持ちになるの?

あんな風船みたいなおっぱいした、ナイスバディな外国人モデル見て…


触りたいの?ああいうのが好みなわけ?


どーせ私の胸なんて、微々たるものですよ。



…そっとベッドの下を覗く。


「あれ、これ…」

その雑誌よりも手前に、茶色い袋があった。


これは確か、涼が友達に借りてたDVD。

レポートの教材の、サイレント映画って言ってなかったっけ?