『追いかけようとしても、扉に鍵を掛けられて、開けられない。
そこで、気付いたんだ。
あぁ、自分は置いていかれたんだって』
要は俯きながら、私の血塗れの手首を強く掴んだ。
感覚が無くなっていく手を眺めながら、私は要の声に耳を澄ます。
『そこから、何故か記憶が飛んで、僕が覚えてるのは四歳の時。
周りは僕と同じくらいの歳の子供達で一杯の、施設で育ったんだ』
要の黒髪が、私の顔に掛かる。
熱を感じながら、私は要を見上げた。
笑っていた。
『僕は施設の中で、頭が良かったらしい。遊び程度でやった計算も漢字も、一番冴えてたらしい。あんまり覚えてないけどね。
そこで、僕は今の本城家に引き取られたんだ。勝手に名字が付けられて』
呟くように言う要は、どこか節々に怒りが篭ったような喋り方だった。
『その家には、僕より歳が上の、お兄さんが居たんだ。とても優しい、ね。
だけど、僕が一年一年大きくなって、毎回毎回その兄さんの成績より上に行くと、兄さんは恐ろしい目付きで まるで汚いもの見るような目で、僕を見るんだ』
要の目は、心から哀しんでいた。