先程までの優しい笑顔の欠片はどこにもなく、千崎の顔には冷たい表情が張り付いていた。



「君の、目。まるで俺を殺すような目付きだよね。俺そんなに悪い事した?」


千崎は薄く笑った。

椅子に座って、手を組んで私を見下ろす。



「すいません、もともと私の目つきは悪いんです」


嫌味と皮肉を吐き出しながら、私は笑顔を浮かべて見せた。



「上等だね。根性と生意気さだけは誰にも劣ってない」

「貴方こそ、さっきまでの笑顔はどうしたんですか?私と同じ、作り物だったんですね」


千崎蒼人は、予想以上に性格が悪い人間だった。

これは、計算間違いだ。


千崎の冷たい視線が私を舐めまわす。



「・・・この婚約を破棄してやる、そんな顔だね」

「ご名答ですね、生憎私には心に決めた人が居るんです」

「それって、俺より上のニンゲン?」

「さぁ・・・・・・、私の中では上ですね」


千崎は形の良い唇を不気味に浮かばせ、椅子から立った。