視界に、上品な雰囲気漂う夫婦が目に入った。


その夫婦に会釈をして、得意の笑顔で続ける。


「高宮夫妻、今夜は私の為にお忙しい所お集まりいただき、誠に有難うございます。
今夜はお楽しみ下さい」

「えぇえぇ、今夜は凛堂さんの娘様が見れると聞いて、大変喜びましたわ。噂どおり、美しい方ね」

「私なんて、そんな・・・・、恐縮です」


謙虚に、儚く、上品に、美しく。


私は教えられた教育どおり、正しくやっている筈だ。

後ろで目を光らせている“お母様”の気に触れないよう、言葉を続けた。



「お名前を伺ってもよろしい?」

「えぇ、勿論。私は、凛堂 梓です。まだまだ未熟ですが、どうぞお見知り置きを」

「梓さん。今日はこの場に御呼び頂き大変光栄だわ。またよろしくお願いします」


夫婦は当たり障りの良い笑顔を浮かべると、そのまま私達の前から去る。


思わず溜め息をつきそうになった。



「梓。姿勢が悪いわ」

「あぁ、すみませんお母様」


“お母様”は私の華麗な対応に褒める事も無く、そのまま指摘ひとつを残して私から離れていった。

いいご身分だ、本当。