「あぁ、やっぱりここに居た。今さっきね、君のお母さんから電話が来たんだ。
・・・空港に居るって聞いて、」


息を乱しながら、千崎は近付いてくる。

思わず要の後ろに隠れた。


「・・・それで、・・・・」

「梓ちゃんは、“逃げる”ことを選んだんだ」


真っ赤なバラの香りが、鼻を擽る。

千崎の真っ直ぐな視線が私を見下ろした。


「あなたとの結婚は、選べない」


要ごしに、私は言った。

結構な勇気を振り絞った方だと思う。


千崎はそんな私の腕を掴んで、引っ張りだした。


「・・・・・・面白い、確かに面白い余興を見せてくれたね、梓ちゃん」


周りの人からの視線が痛い。

無理も無い。こんな美形が花束を持って、美しすぎる井出達をしたんだから。


「そう言うところが、好きだったんだよ。はいこれ」


千崎は笑顔を浮かべたまま、私に花束を押し付けた。

慌てて受け取る。


「こ、れ・・・・・・・?」


千崎を見上げる。

そいつはそいつらしく、妖しい笑みを浮かべたままだった。