「もう、どこにも帰れないよ?」
温かい体温が、私の手を通して伝わる。
その質問に、私は笑って答えて見せた。
「要がいるなら、もう何だっていいや」
片手に要の手、片手に小さいバッグ。
家から持ち出した荷物は、小さいバッグに収まるくらい、少ないものだった。
バッグに入っているのは財布と化粧品ぐらいだ。
要も私と同様、荷物は少ない。
それを考えると、何だか笑えてきた。
私たちは、自分の所有物がこんなに無かったのか、って。
自分は、緑さんの“モノ”で、所有されてる側だったんだって。
「あと十分で飛行機に乗り込むよ、荷物はいい?」
「だって、荷物ってよべる荷物なんてないじゃない」
要は苦笑する。
大きいゲートを潜って、私は飛行機が何台も並んでいる所を見渡せる、喫煙所に出た。
「飛行機って、こんなにも大きいのね」
「そっか、梓は乗った事無いね」
「乗る必要も無かったからよ」
私は知らない事ばかりだ。
内容だけの勉強をして、実際に見て、触って、感じる、という勉強はしてないからだ。
それはきっと、要も同じだと思う。
同じ境遇だから、一緒に感じれることもあるんじゃないかな、と思う。