「凛堂家に縛られるのは、もうやめたの。
要も一緒よ?要も、本城家に縛られるのをやめたの。一緒に、逃げるの」
傷付いて、傷付いて、心を無くしそうになった、あの虚無感を忘れない。
最深部まで抉られて、あとには何も残らない。そんな、喪失感。
どんなに苦しんだって、なにも変わらないんだ。
だったら、なにも変わらないくらいだったら。
「駆け落ち、するの」
悲鳴が耳を切り裂いた。
それにも何故が、笑いが零れた。
「いま、空港。どこに行くかは教えない。」
『駆け落ちするって、貴女・・・!!
自分が何を言ってるか分かってるの?!』
大きい窓から見える、真っ青な空。
空を見ていたら、大音量で叫ぶ受話器を自然と耳から離していて、要がそれを取り、電源を切った。
「そろそろ時間だよ。行こうか」
要が優しく手を差し伸べた。
その手を握って、私は歩き出す。
慎ましく流れるアナウンスを聞き流しながら、私は要の声に耳を傾けた。
「これで、いい?」
「え?」
「梓は、これでよかった?」
世話しない足音が、私の鼓膜を響かせる。