カタン。
玄関から、物音がする。
一瞬で体が凍りついた。
要が帰ってきたのだ。
まだ心の準備も、覚悟も決めていないというのに。
私は固まったまま、近付く足音に耳を澄ましていた。
ふわりと、優しい匂いが鼻を掠める。
その匂いに心が落ち着いた気がして、振り向こうと思った。
途端に、頭を引き寄せられる。
バランスを崩して、私を支える体に体重を預けた。
「・・・・・梓、」
低くて優しいこの声は、要だ。
顔を上げられないまま、私はそのまま要に凭れ掛かった。
「・・・梓から、違う匂いがする。服も、違う。・・・外に出たの?」
要は一瞬で私の核心をついてきた。
心臓が跳ねて、怖々要を見上げる。
意外にも要は、口元に優しい笑みを浮かべていた。
内心不気味なような、安心したような気持ちになって、とりあえず要に謝る。