靴を脱ぎ捨てて、要がいつも寝るベッドに座り込んで、少し目を閉じた。
私は今日何をした?
あろうことか、千崎に抱かれたんだ。
千崎と婚約するかしないかまで、あと二日だというのに。
もしかしたら要と一生会えなくなる日まで、あと二日だというのに!
目を開ける。
部屋は外から零れる僅かな光しかない、暗い部屋。
そうだ、そうなんだ。
今こうやって現実味が無いのは、私が外なんかに行ったからだ。
初めて大きい海を見たし、通ったこともない道を車で走った。
初めてばかりだった“外”は、私に合わないんだ。
髪に染み付いた磯の香りを吸い込む。
青い海が頭に浮かぶ。
どうしても、心が踊るのを抑えられなかった。
まさか、千崎と居て、楽しい、と思ってしまうなんて。
自分で自分を疑った。
この、感情は何なのだ。
今日、口付けられた唇も、重ねたからだも、触られた髪も、全てが要と違う。
そう思った途端に、体の芯が一気に冷えた気がした。