「ねぇ、梓ちゃん」

「・・・・なに」

「親密な関係を持って、俺の事を名字で呼ぶ女なんて、君くらいしかいないよ」


そこが、すき。


千崎は全速力超どストレートに投げてきた。


思わず頬が熱くなる。



「・・・・っ、馬鹿じゃないの?ただ、名前を呼んでないだけで人を好きになれるの?」

「そこだけを好きになったんじゃないよ、あくまで例え。照れてるくせにさぁ」


大きい通りに出た。

私はなるべく千崎と顔を合わせないように、窓の方を向きながら流れる景色を眺めた。


少し曲がって、薄暗い通りに入る。

入り組んだ道の、奥に入ったところが要の家。

ようやく見慣れた景色になってきた。


「ちゃんと考えてよね、俺のことも」

「考えざるを得ないでしょ、結婚なんて持ちかけたのはそっちなんだから」


不意に、要に会いたくなった。

けど、会いたくない。

どんな顔して、どんな嘘をついて、要に会えばいいだろうか。


「・・・ありがとう、ここで良いわ」


家からすぐ近くの道で、車を停めてもらう。

千崎がこちらを見た。