一瞬、“それだけ?”と思った。

もしかしたら、その媚びへつらう人間と婚約してれば、世界に名前を響かせる、いや、世界で一番くらいの会社になると思うのに。

どこまで自由なんだ。


「それで、何で梓ちゃんかって言う本題ね。

俺ね、あのパーティのとき、物凄く不機嫌だったんだ」

「は?」


渋滞しはじめた道路を見て、千崎は少し不快そうな顔をして、車どおりの少ない道に曲がった。


「大事な商談があった次の日だったんだ。眠くて、だるくて、何で他人の結婚決定パーティなんかに出る必要があるんだ、って心底思ってたわけ」


内心、本人の目の前でよくぬけぬけと言えるな、と思ったけど口には出さない。

千崎は気にした様子も見せず、続けた。


「そしたら、君が目に入ったんだ」


ちらりと千崎が私を見遣る。


「結婚決定、って聞いたから、てっきりいい歳の大人のパーティだと思ってた。
だけど、二人とも意外に若くて、梓ちゃんなんて十六ぎりぎりだったんだよね」


車通りの少ない道路を進む。

大通りよりも渋滞が少なくて、案外スムーズに進めた。


「初めは、ああ、こいつも媚る人間なんだ、って思ってたよ。

誰にでも愛想いい顔して、笑って、当たり障りの無い世辞を並べるんだ。」


そうでしょ?

と千崎は私を笑って見下ろした。