「いいよ、言いたいこと、言ってみなよ」


千崎は少し笑うと、私に続けるように指示した。

顔が熱いまま、口を開く。


「だって、千崎は他の女がいないわけじゃないでしょ?
地位だって、容姿だって申し分ない。そんな千崎を、他の女がほっとくの?

きっと、私よりもずっと綺麗で、頭もいい人が居ると思うのに」


千崎から目を逸らして、流れる都会の景色を眺めた。

ああ、今自分は何を言っているのだろう。

まるでこんなのじゃあ、千崎の本心を確かめているみたいだ。


隣で笑いを堪えたような笑みが聞こえる。

振り返ると、千崎がハンドルを握りながら、堪え笑いしていた。


「今更、なの?」


くっくと笑いながら、千崎は正面から少し目を離して、私を見下ろす。


「うん、確かに梓ちゃんより綺麗で、権力もあって頭が良くって、申し分も無い女から求婚は沢山されるよ。鬱陶しいくらいにね」


自分が聞いた質問なのに、どこか馬鹿にされてる気がしてかちんとした。

千崎はそのまま続ける。


「でもさ、やっぱり教養が完璧になってる人間って、媚び諂うでしょう?」


一瞬、魂がどこかに飛んでいった感覚に落とされる。


「やっぱ、ああいうの嫌なんだよね。気に入られようとして、いいヒトを作るのが、嫌い」


千崎が、さらりとそう言った。