確実に将来が保障されている千崎と婚約したら、それはそれは楽な人生を歩めるだろう。

欲しい物はすぐに手に入って、やりたいことも何でもできる。

それが、彼の今持つ力なんだ。


「はい、どうぞ」

「・・・・・・・・・どうも」


千崎が“紳士”の面を出し、車のドアを開けてくれる。

こういう化けの皮を被るのが上手いところが、人生行き渡り上手なのだろう。


千崎も車に乗り込み、発進した。


少し、沈黙が流れる。



「・・・・・・・・・千崎は何で、私なの?」

「は?」


千崎が今まで見せた事が無いくらい、間の抜けた顔をしている。

はっとした。

我に返って、今言った言葉を取り消したい。


「どうしたの、急に。」

「いや、・・・・・・その、なんか。」


顔が熱くなった。

私は、何を言い出してるんだろう。

きっと、疲れで頭がおかしくなってるんだ。