「梓ちゃん、十六には見えないね」
「さっきまで子供扱いしてたのは誰よ」
「ちょっと前の話ね」
時計を見遣った。
七時を過ぎたくらいだ。
あんなに帰りたいと言っていた私が、こんなにも帰りたくないのはきっと、要に合わせる顔がないからだ。
「今日、どうせ暇だから送ってくよ。ほら、準備して」
ソファに押し付けていた顔を上げた。
元気そうに動き回っている千崎を見て、無性に腹が立つ。
腕をとられ、立ち上がった。
「本城君じゃなくて、俺もなかなかいいでしょ?」
飄々と言い放つそいつを睨んで、私は足を進める。
「ちゃんと考えてよね、結婚」
「その言葉を軽々しく言わないでくれる」
関係を誓っていた私と要との間に、突然現れたこいつのせいで、叶うかもしれなかった婚約も夢になってしまったのだ。
恨まずにはいられない。
「絶対、本城君と一緒に居るより、俺といたほうが楽だと思うのに」
平然と言い放つ千崎に、何か言い返してやろうかと思ったけど、やめた。
事実無言なのだ。彼の言うことは。