「緑さんに会いに行くよ。どこに居る?」
「多分、食事所で媚でも売ってるんじゃないかしら」
要は少し笑うと、ロビーを早足で歩く。
ヒールがある私は、極力不快な音が出ないよう、必死に要に着いていった。
要も緊張しているんだ。
この婚約が、無駄にならないように。
私も固唾を飲んだ。
「緑さん、お久しぶりです」
沢山の人の中で、中でも雰囲気が一つ違う、緑さんが振り向いた。
「あら、まあ。要さん。お久しぶりね」
さっき私に見せた顔とは全く違う、綺麗な顔を要に見せる。
どうせ、こんな人間の内側なんて、どう足掻いたって汚いままだけど。
「僕と梓の婚約、とても光栄でした。有難う御座います」
要は、誰が見ても“美しい”と言うような、そんな笑顔を緑さんに見せた。
「えぇ、えぇ。だって貴方達、とても仲が良いものね。梓なんて、要さんだけにしか楽しそうな顔をしないんですのよ」
気味の悪いしゃがれた声で、緑さんは続けた。