冷たくて、ねっとりした、そんな嫌な視線が私に向けられる。
思わずその気持ち悪さに、私は顔を顰めそうだったけど、そこは我慢。
持ち前の美貌と、誰よりも上手くなった作り笑みで、その場を凌いだ。
「本当、凛堂さんの娘さんは御綺麗ですね」
遠くから、知らない女性の声がする。
鳴呼、鳴呼、嫌嫌。
この世界は、“お世辞”と“偽り”で出来ているのだ。
取り合えず、私は声のした方を見遣り、微笑んだ。
「いえいえ、うちなんてまだ、子供ですから・・・」
今度は、生意気な声色の、しゃがれた声がした。
私はこの声が大嫌いだ。
鼓膜をずるりと這って、頭の中に残る声。
私は席を立った。
視線が私に絡んで、そしてそれを振り切るように、私はそこを出た。
(あぁ、もうやってられない)
扉を閉めて、心でそう思う。