そっと彼の髪に指を差し入れて優しく撫で回す。

お互いの唇がまるで生き物であるかのように相手を求める。


「…沢森さん……、ん、……いけません……よ…」

そっと唇を離しその瞳を上目遣いで見つめた。

微かに潤んだ光が私を見つめ返している。


藤崎の鎖骨に指をそっと這わせながら言う。

「…嫌よ…、沢森さんだなんて…。
千歳…って呼んでよ」

「………!」


彼は肩で息を切らせたまま驚いた顔をする。


………どうしてだろう。
昨日までの数年間、意識した事もなく、その存在すら感じた事がなかった同僚。

……そう。ただの人。
それだけのものでしかなかった目の前のオトコ。

見つめ合う度にこんなに気持ちがグイグイと奪われていくなんて。


ただの………藤崎のくせに。