「…千歳」

ドアの向こうから聞こえる声。

「…千歳、眠ったの?」

…優しく、甘く…私の心にいつも染みてくる。

「怒ってるの…?開けてくれないかな」

私の顔色をオドオドしながらいつも窺ってる。
私を怒らせないように、細部にまで気を配るように。


「………」

私が返事をせずにじっとしていたら、その声は呼び掛けをやめた。

帰ったのかしら。
………そうね。それがいいわ。

今、あんたに会ったら嫉妬から何を言うか分からない。
あんたを殴り倒してさえしまうかも。


…………勇気。
何でここに来たの?

あんたを捕らえて苦しめている肉食獣が、一瞬油断してるわよ。
逃げ出すなら今しかないわよ。

鋭い牙と爪で…傷つけられる前に。