朝。
今日は土曜日。
ゆっくり布団で微睡む事が出来る。
昨夜のお酒が身体の動きをどんよりと制している。
私は一度覚めかけた目を再び閉じた。
――靖夫…。
本当に彼が好きだった。
あなたとの未来を本気で夢見て夢中で恋してきたのに。
………やめよう。
もう、終わったのよ。
今頃彼は新婚初夜から初めて朝を迎え、その腕に愛しい花嫁を抱き締めている事だろう。
閉じた瞳から涙がこぼれ出し、ゆっくりと顔を這って流れ落ちるのを夢と現実の狭間で感じる。
………靖夫……。
………………。
……あれ。…何だろう。
身体の節々で違和感を感じる。
ほっこりと包まれている様な錯覚。
腕も腰も背中も……、人肌に触れている様な温かさ…。
パチッと目を開く。
カーテンの隙間から朝の日射しが射し込む以外は…
何もない部屋。
……私の部屋じゃ…ない?!
ガバッと身体を飛び起こす。
「!!!?」
私を背後から抱えるように抱き締めていたと思われる腕がバタッと落ちた。
隣で眠っているのは……
見たこともない男。
誰?!!
私は驚きと衝撃で声も出せずにその男を呆然と見た。
……どこかで会った事が…ある?
いや…、知らないわ…。
何で……!
ハッと自分が何も身に付けてはいない事に気付いた。
隣の男も裸だ。
………やっ…ちゃった…の…?
昨夜の自分の行動を必死で思い返す。
――昨日は…靖夫の結婚式の二次会に参加して……。
…「どうしたんですか、沢森さん。
何だかいつもの雰囲気と違いますね。
…珍しく、落ち込んでいる様に見えますが」
……はぁ?
話しかけられて面倒臭さを隠す事もしない表情で振り返った。
「藤崎」
彼は藤崎 勇気。
同期の同僚。
いつも仕事ではミスばかりしていて、容姿も全然垢抜けない。
言わば『冴えないオトコ』の代名詞みたいなヤツ。
ちょっと。
私に話しかけないでよ。
親しくしていると思われたくない。
「……眼鏡…、ズレてるよ」
私は冷たく彼を見ながら一言呟いた。
「…あ。……ああ。すみません」
クッとフレームを上げながら彼は恥ずかしそうに私から目を逸らした。
全く…。馴れ馴れしく近付いてほしくないわ。
しかも今は傷心を必死で隠しているんだから。
私がフラれてあんな能天気なケバ女に靖夫を奪われただなんて、みっともなくて言えやしないわよ。
「…珍しく…って、どういう意味よ」
「あ…別にそんなに深く意味がある訳じゃないですよ。
ただ、…沢森さん、元気がないから」
藤崎は言ってはいけない事を言ってしまったとでもいうようにバツの悪い顔をする。
…………。
どうしてそんなにオドオドしてるのよ。
誰もあんたを苛めたりなんてしないわよ。
…イライラする。
「……用がないならあっちへ行ってよ。
一人で飲みたい気分なの」
私は彼から目を逸らすと側の椅子に腰かけた。
……「佐野さんと……何かあったんですか」
「……?!」
背後から聞こえた言葉に振り返る。
藤崎は私を真っ直ぐに見ていた。
曇りのない、綺麗な目。
ああ。そうだわ。
……靖夫の目からは、この輝きを見た事がない。