凜ちゃんが、着ていた黒いコートを脱いで、その端を手にして…それを大きく振るようにして、宙で身を翻しながら、夜空高く舞っていた。


しなやかな身体のバネに驚嘆すると共に、長い黒髪を風に靡かせて跳躍する姿は…あまりにも美しい戦女神のようで。


思わず息を飲んだ。


そして――

着地と同時にコートを地面に叩き付けた時、

似つかわしくない金属音がした。


からんと地面に1つ零れ出てきたのは…

小さな細身の銀のナイフ。


手術で使うメスのような…


「制裁者(アリス)!!!?」


過去幾度も目にしたその武器。


凜ちゃんはコートで沢山の武器の攻撃を防いでくれたらしかった。


そして凜ちゃんは空に舞い上がる。


スカートを翻し、闇夜に漆黒の姿で、ひらひらと。

華麗に…何一つ無駄のない動きで。


綺麗だと思った。

格好いいと思った。


見惚れてしまう。


あたしも凜ちゃんのように、強く格好よくなりたいと思った。

あたしの指は、自然と…唇に触れていた。

強烈な思い出。

同性からの熱烈ちゅう。


親愛を行きすぎたそれは、情愛にも似ていて。


もしかして…凜ちゃんは激しい恋をしているのかもしれない。


それを伝える手段が無く…

あまりのもどかしさに…身体で体現したのではと。


もしかして…

ねえもしかして…


凜ちゃん…


久遠に恋してる?



あたしにキスしたのは、嫉妬!!?


だからずっと訴えてたの?

久遠に手を出すなって。


そう思ったら、それが正しい気がしてきた。


なんだ、あたしは当て馬か。


久遠も焦って引き剥がしたと言うことは…

満更でもないのかな。

あの女に興味なさそうにしている久遠が、凜ちゃんをメイドに雇ったくらいだ。


しかもあんな美人だし。



ああ、だから…。

あたしが久遠にぐらりときた時、久遠は拒んだんだ。


そうか。


これであたしの初恋は、失恋確定だ。


…ちくりと胸は痛むけれど、これは秘密にしておこう。


久遠と凜ちゃん…。


これは友達として、なんとかせねば。