そして視線を回した美咲は強烈な違和感に襲われた。何かが変だ、何かが違う。確かにあの小学校の辺りなのに、景色に見覚えがない。まず吉川の家が見つからない。辺りが妙にだだっ広く見えて仕方がない。
 よく見ると、小学校の様子もおかしかった。建物全体はちゃんと立っているが、一階のドアやガラス窓はあちこち穴が開いたり壊れたりしている。
 周りに木がない。もっとたくさん高い木があったはずだ。だが見渡す限り、丈の高い雑草が所々に生い茂っているだけで、全体の風景が変に平べったく見える。美咲は道路の彼方に目をこらした。そこにはやはり、あるべき物がなかった。美咲は何がなんだか訳が分からず、救いを求めるように初老の方の女性に尋ねた。
「ストロベリーラインはどこ?この道からずっと続いていたはずなんだけど?」
 ひょっとして自分は何かのはずみで数十年後か数百年後の世界にタイムスリップでもしてしまったのだろうか?美咲はそう考えた。そうとでも考えなければ、たった一晩でこんなに風景が変わってしまっている事の説明がつかない。
「ああ、あったね」
 初老の女性は穏やかな微笑を浮かべた顔で、どこか悲しそうな口調で言った。
「うん、確かにあったんだよ。あの日までは」
「あの日って、いつの事?」
「3月11日だよ、去年の」
 去年でその日付という事は……次の瞬間、美咲の頭の中を雷のような衝撃が走りぬけた。その日付なら2011年3月11日……東日本大震災!
 美咲はあらためて周りの風景を見回した。違和感の正体はこれだったのか。吉川の家だけでなく、この辺りにあったはずの家がない。木もない。まるで何かに押し流されたかのように。
「これってまさか、津波の跡?」
 震えながらそう訊いた美咲に初老の女性は大きくうなずいた。そして海とは反対方向を指さしながら言った。
「あっちの方じゃ、常磐線の駅が跡形も無くなっちまったんだ。イチゴのビニールハウスなんて、そりゃもうひとたまりもなかったさ」