それを合図に5人は美咲を置いて前に歩き出した。美咲はあわてて小走りになって後を追いながら、なぜか急に不安になって叫んだ。
「ちょっと、行くってどこへだよ?あたしも一緒なんだろ?あたしも仲間にしてくれよ。ずっとこの町にいさせてくれよ!」
 振り返ったフミじいさんは、優しい笑顔で、しかし何か悲しそうな表情でゆっくりと言った。
「あんたを俺たちの仲間にするわけにはいかねえ」
 美咲は愕然として叫んだ。
「なんでだよ?なんで、あたしは仲間になれないんだよ?」
 だが、フミじいさんは何も答えず、君枝の手を引いて歩き去って行く。吉川も明も無言で美咲に背を向けて後を追う。
 その時になって美咲は自分たちの周りが真っ白い霧に包まれているのに気付いた。一体いつ霧など出たのか、見当もつかなかった。いや、それは霧でも靄でもなかった。まるで周りの空間全体が白い何かに埋め尽くされているかのような、そんな感じがした。
 呆然として立ちすくんでしまった美咲の前に麻里がやって来た。麻里は自分の髪を束ねている、あの玉虫塗の髪留めをはずし、それを美咲の左手首にはめた。
「麻里ちゃん……みんな、どこへ行くんだよ?あたしも連れてってよ、ねえ」
 麻里はやはりどこか悲しげな、しかしいつもの無邪気そうな笑顔で答えた。
「ごめんね。これをあげる。だからこの町のことを忘れないで。そしていつか、本物のストロベリーラインを見に来てね」
 それはどういう意味なのか、と問か返す間もなく、麻里はみんなの後を追って走り去って行った。美咲は必死で彼らに追いつこうと駆け出したが、なぜかその後ろ姿はどんどん遠ざかって行くばかりだった。どこまでも果てしなく続く白い闇のような空間の中で、いつしか美咲は意識が薄れていくのを感じていた。