何でって、秘密にしてたの?」
小春が言う。

「してないけど…でも何で勝手に言うの?
それ知ったら元崎来なくていいって言うの決まってるじゃん!」

小春は一つため息をつき、確かめるように聞いた。

「…ゆきさぁ何で行きたかったの?路上ライブ」

「何でって…それは…元崎の力になりたいし…」

「それはお詫びのつもり?」

「そうだよ。昔傷つけたお詫びができるなら行こうって思ったの!」

「でも元崎はもう気にしてないんでしょ?だったらゆきも何もしなくていいじゃない。」

「でも、私は…」

「そうやって、ゆきがいつまでも過去のこと気にしてたら、前に進めないよ。
ゆきも元崎君も。
自分がどうして元崎君の力になりたいのかちゃんと考えなよ。」

痛い所を突かれた。

ゆきはそう思った。

ずっとゆきはそこの部分に触れないようにしてきた。


傷つけたお詫び


そう思うことで元崎に近づける理由ができた。
でもそれが無くなってしまったら、自分はなぜ元崎に会いたいのか。
そんなこと分かりきっていることだ。

しかし、それを認めると元崎に会えない。

会ってはいけない。



だって私にはそんな資格ない。





「もう、いい。
春ちゃんにはわかんないよ。
私の気持ちなんて。
春ちゃんみたいに、
何でも白黒付けてはっきり言える様な人にはわかんないよ!」


「分かりたくもない。ゆきみたいなうじうじした奴の気持ちなんて。」

突き放すように小春は言った。


「もういい!春ちゃんなんて知らない!」

ゆきはそのまま駆け出して行った。



残された小春のもとに遠慮がちにオレンジジュースが運ばれてきた。


「派手なけんかだねぇ」

「あ」

「こんにちは。高山さん」

「いつからいたんですか…?」

「何で!から。」

「盗み見ですか。趣味悪い」

「春ちゃんさ、協力はしないって言ったのに充分協力してるじゃん。」

小春の前に腰かけながら圭が言った。

「はあ?どこがですか。
私は分かってたんですよ。
元崎にゆきのバイト先が変わったのを言ったら、もう来なくていいって言うって。
分かってたのに元崎に言ったんです。
ゆきにとってはむしろ邪魔したんです。」

淡々と話す小春の顔はどこかつらそうに見えた。


「そういうのを協力って言うんだよ。春ちゃん。
川島さんに現状を打開させたかったんでしょ?
それは立派な協力だよ」

にっこりと微笑みながら圭は言った。

その言葉はゆきを怒らせたと気にしていた小春の心を少し軽くした。

「さぁ、俺も一仕事してくるか。」

「仕事?」

「そ。春ちゃんが頑張って協力したのに、俺が何もしないってわけには行かないからね。」





元崎の力になりたい理由。
そんなこと分かっている。

ただその理由を認めてしまうのが怖かった。

だからずっと逃げてたんだ。
罪悪感を利用してたのは私だ…。

どうしたらいいのか分からなかった。

友達として歩み寄ろうとしてくれた元崎。

お詫びで来ているなら来なくていいと言う。

でも、その理由が無ければわざわざ遠回りしてまで元崎に会いに行く理由が、ゆきには見つけられない。

ただ会いたいだけ。

その想いは今さらすぎて元崎の迷惑にしかならないのではないか。

その場にうずくまり、ゆきは頭を抱え込んだ。

「川島さん」

「如月くん?」

「大丈夫?」

「何でここに?」

元崎もいるのだろうか。

「残念だけど、俺一人だよ。」

圭の後ろを見ていたゆきに言った。

この期に及んで何をやっているんだろう。

「元崎がさ、駅で路上ライブしようっていいだしたの何でか知ってる?」

「文化祭でライブするからその練習でしょ?」

急になんだろう。

ゆきは怪訝な顔で答えた。


「でもさ、わざわざ駅で練習しなくてもいいだろ?放課後学校でやればいいんだし、現にほかの奴らはそうしてる。」

言われてみれば。
じゃあ何で?

「川島さんに自分の存在に気づいてほしかったんだって。」

私に…?

「…何で…?」

「それは自分で考えてね。」

え…

「高山さんのいったことは正しいよ。昔何があったのかよく知らないけど、今は今だよ。過去のこと気にして元崎に遠慮する気持ちも分かるけど、それを理由に本心隠すのはずるいよ。」

「でも元崎の迷惑には…」

なりたくない。その言葉を最後まで言わせず、圭は言った。

「迷惑って一弥が言った?言ってないよね?気持ちってのは言葉にしなきゃ伝わらないよ。他人が何考えてるかなんて分かんないだろ。」

黙りこくったゆきを見て圭は続けた。

「元崎、今あの駅にいるはずだよ。」

それだけ言うと圭は去っていった。

あれは罰ゲームの告白をした、次の日の放課後だった。

「一緒に帰ろう」

元崎が声をかけてくれた。

恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに元崎は言ったのだ。

その笑顔がまぶしくて、優しくてゆきは泣きそうになった。

この笑顔を私は裏切っている。

今でも後悔する。

この時ちゃんと謝って自分の気持ちを伝えれば良かったと。

そうすれば元崎を傷付けなかった。あんな顔をさせなかった。

いつだって歩み寄ってくれたのは元崎だった。

ゆきはただそれを待っていただけ。

会いたい。

元崎に会いたい。

お詫びなんかじゃない。

私は今でも元崎が好きなんだ。

ゆきは立ち上がった。

今度は私から。

今の自分の気持ちを、本当の気持ちを伝えたい。

「ねぇゆき。元崎どうなの?」

「え、どうって?」

「本当に好きになっちゃったりして。」

「ま、まさか!そんな訳ないじゃん。」

「本当にぃ?でも悪い気はしないんじゃないのぉ?」

「め、迷惑なだけだよ。あんなの。」

元崎が真実を知った時のカナコとゆきの会話だった。

教室の外から元崎はこの会話を聞いてしまった。

あぁそうか。
罰ゲームだったのか。

それを俺は本気にしたのか。なんてバカなんだ。

勘違いしてごめん。

この言葉は元崎のせめてもの強がりだった。

ここで怒ったりしたらよけい惨めだ。

ゆきは泣き出しそうな顔で元崎をただ見つめていた。

泣きたいのはこっちだよ。

このまま嫌いになれたら楽だったのに。

しかし、感情とはそう上手くコントロールできるものではなかった。


気分転換に街に出た元崎だったが知らず知らず、この駅に足が向いた。

思いだしたくもないのに、過去の出来事が昨日の事のように蘇る。

お詫びなら来なくていい。

随分自分勝手だ。

自らお詫びに聞きに来いといったくせに。

しかし、それがゆきを縛り付け無理をさせているのではないか、と思うと元崎はそのままにしておくことはできなかった。

何をやってるんだ。俺は。

ひとつため息をつき、元崎は空を見上げた。

眩しいくらいに太陽が輝いている。

お詫びをしてほしかった訳ではない。

ただ会う口実がほしかっただけだ。

ゆきにその気持ちは伝わらなかった。

いや、違う。

伝えることができなかったんだ。

元崎は思った。