この駅をゆきが利用していることも知っていた。
そのついでなら、聞きに来てくれるかもしれない。
そんな淡い願望から「お詫びに」という案を持ちかけたのだ。
案の定ゆきはすぐに了承した。
つくづく俺は最低だ。
考えているとどんどん落ち込んできた。
「今日は川島さん来ねぇな。」
隣に座っていた圭が言った。
「ここんとこ毎日来てたのになぁ。」
「ああ。そうだな。」
憎たらしいほど整った顔立ちだ。
元崎は隣の見慣れた顔を見ながら思った。
嫉妬するのも馬鹿らしくなる。
そういえば、川島もかっこいいとかいってたな。
やっぱり女はこういう顔が好きなのか。
ふとゆきの発言を思いだすと、イライラしてきた。
正確にいえば、ゆきは整った顔だと言っただけだが、
元崎にとってはそれは同じ意味だった。
「あ、一弥あれって…」
「なんだよ!」
つい声を荒げてしまう。
「お前がなんだよ。でかい声だすな。
あのメガネの子、川島さんの友達じゃね?」
圭が見ている方を見るとそこには確かに見覚えのある顔がいた。
駅で最初に会ったときに一緒にいた友人だ。
「本当だ。1人か?川島は一緒じゃねぇのか?」
気になりつい声をかけた。
確か名前は…
「春ちゃーん!」
ゆきがそんな風に呼んでいた気がする。
元崎は思いきり叫んだ。
「おい!ばかかお前!」
急に叫んだ元崎に圭の方が焦った。
しかし、小春は特に驚いた風もなく元崎を見た。
「川島の友達だよね?一回ここで会ったけど、覚えてる?」
「はあ。どうも。」
小春は面倒くさそうに答えた。
「えーっと…一人?」
「…あぁ…ゆきですか?」
小春は少し考えてから言った。
「ゆきならもうここ通らないですよ。」
「え?何で?」
「バイト先変わったんですよ。だから、この駅使いませんよ。」
うそだろ。そんなの聞いてない。
「それっていつ…?」
「もう結構前。」
結構前?
おかしい。
ゆきは昨日も一昨日もここに来ていたのに。
「でもここには来たいって言ってたんで今日も来るかもしれませんね。」
「え、来たいって言ってたの?」
「はい。遠回りだけど、昔の罪滅ぼししたいって言ってましたよ。」
「罪滅ぼし…」
浮上した気分を一気に落とされた。
そんな元崎にお構いなく淡々と小春は続けた。
「あなたがどういうつもりでゆきに声をかけたのか知りませんけど、
これ以上昔のこと引っ張らなくてもいいんじゃないですか?」
それじゃ、と言いたいことを言った小春は軽く頭を下げて去っていった。
罪滅ぼしか…
そう持ちかけたのは元崎自身だ。
しかし、実際ゆきがそう思いながらここに来ていると知るとつらかった。
「圭。俺今日は帰るわ。」
「川島さん待たないのか?」
「たぶん来ないだろう」
時計を見ると7時30分を過ぎたところだった。
ひとりになって少し考えたかった。
「付き合わせて悪かった。」
そう言い残し元崎はトボトボと帰って行った。
うまく行かないもんだなぁ。
残された圭は駐輪場へ向かいながら思った。
本来ならば圭もこの駅から電車を使うが、
元崎とゆきに気を使い自転車で30分かけて帰宅していた。
圭が思うにゆきも元崎のことを少なからず想っているはずだ。
面倒くさい2人だな。
駐輪場の横には小規模のスーパーがある。
何か買って帰ろうかと見ていると、見知った顔がそこから出てきた。
メガネに二つ結び。
地味な顔に似合わずはっきりものを言う。
圭は小春に対してそんな印象を持った。
なんとなく興味が湧き、圭は小春に声をかけた。
「さっきはどうも。春ちゃん。」
買い物袋を提げた小春は、さっきと同じ様に特に驚かずに圭を見た。
「あー。ギターの…」
「良かった。覚えてたか。」
「そりゃあ。なんか目立つ顔だし。」
まじまじと圭の顔を見ながら小春は言った。
「どうも。よく言われるよ」
「でしょうね。で、何か用ですか?」
どこか面倒くさそうに小春は尋ねた。
整った顔立ちに社交的な性格。
それ故に女子から邪険に扱われた経験がない圭は、
今までにない女子の反応に面白くなった。
「用って言うか、一弥と川島さんの事だけどさ、どう思う?」
「どうって言われても。」
「いや、あの二人どう考えても両想いだろ?
俺らで協力してくっつけない?」
「無理です。」
即答だった。
「え?何で?」
「私、協力とか苦手だし。それに、他人が介入しても余計こじれますよ。
ゆきは元崎くんを好きだって認めないし。
傷つけたこと今だに気にしてるんですよ。」
「だから、元崎はもう気にしてないって一言言ってやってよ。」
「私が言ったって聞かないですよ。」
「強情だなぁ。春ちゃん」
「どうも。よく言われます。話はそれだけですか?」
「え?あぁ。」
「じゃあ失礼します。」
姿勢良くクルっと後ろを向いたかと思うと、
思い出したように圭の方を振り返った。
「高山です」
「へ?」
「苗字。
高山です。
勝手に名前で呼ばないでください」
それだけ言うとキビキビと帰っていった。
午後9時になった。
今日はバイトがいつもより遅く終わった。
おまけに遠回りして駅にいったためこんな時間になってしまった。
ここ一週間毎日通っていたため、
元崎は待っているかな、
と淡い期待を抱いたが、見事その期待は打ち砕かれた。
ま、もうこんな時間だしね。
空を見上げるとまん丸の月が見えた。
明日は会えるかな。
角を曲がるとゆきの家だ。
さぁ家に帰ったら明日の課題しなくちゃなぁ。
角を曲がりふと前を見る。
そこには見覚えのある人影があった。
「元崎!?」
家の前、自転車を横に置き座り込んでいたのは元崎だった。
「どうしたの?」
ゆきは駆け寄った。
「あぁごめん。こんな時間に…」
決まり悪そうに頭を掻きながら元崎は立ち上がった。
「いつからいたの?駅には今日いなかったよね?」
「駅…今日もいったのか?」
「うん。バイト帰りに寄ったよ。遅くなっちゃったけど。」
「そうか…」
「どうしたの?何かあった?」
心配そうにゆきは言った。
「川島…」
「何…?」
どうしたんだろう。様子がおかしい。
「あ、ここじゃなんだし、中入る?
お父さんもお母さんも遅くなるからさ。」
招き入れようと門扉に手をかけたが、すぐに元崎に止められた。
「いや、待て。ここでいい。すぐ帰るから。」
何だろう。
ゆきはどうしたらいいのか分からず、元崎の言葉を待った。