「朝子さん」

 朝子を呼ぶ声に、私は反射的に顔を上げた。

「葬儀、始まります」

 雨宮だった。作家だった篤郎が死んだことは新聞でも小さく報じられたから、朝子の心配をして来てくれたのだ。

 雨宮の目が、私を探るように見る。

 私が、本当に朝子であるのか、確かめるように見る。

 それとも、それは私の気のせいだろうか。

「今、行きます」

 私は、自分でも私が何者であるのかわからないまま、応えた。