あたしは立ち上がった。



――――…もう一度

皐月に会うために。





「ありがとう、佐野くん!
あたし、行ってくる」



そう言って走り出したが
佐野くんは
なにも言わなかった。




でも、千菜がいなくなって
しばらくすると


髪をくしゃくしゃにして



「……無理だったか」




と、呟いた。



それは誰も知らない、彼だけの恋の秘め事。



千菜に
譲れない想いがあると同様に、


彼にだって
譲れない想いがあった。



でも、いいのだ。




「藤堂の応援はしないけど……宮杉がんばれよ…」




――――君が幸せに笑ってくれるなら


俺は、この上ない幸せを
感じられるから。