もうすぐ文化祭。
放課後の教室で
1人、あたしは残りの飾り付けに没頭していた。
「何やってんの?千菜【チナ】」
「…あっ! さっちゃん」
名前を呼ばれて振り返ると
栗色の髪をいじりながら
藤堂 皐月【サツキ】はやって来た。
“さっちゃん”って
呼んでるけど一応、男の子。
身長も高くて、結構、筋肉質なのに顔が可愛いっていう……ι
「その呼び方やめろって言ったじゃん」
彼は自分の顔がコンプレックスらしく、あたしの呼び方を嫌っている。
「だってー可愛いんだもん。
さっちゃん」
そう言いながら
皐月の頬っぺたをツンツンするとムスッとし出す皐月。
「調子に乗んな」
皐月はあたしに仕返しするようにあたしの頬っぺたをつねり出した。
「痛いってば~!
うぅーごめんなさい…」
「よろしい」
痛くてちょっと涙がでたけど
謝れば優しく笑って許してくれる皐月が
あたしは…大好き。
皐月とは高1の4月から
付き合ってます…
いつも優しくて
いつも見守ってくれる皐月に
いつの間にか
あたしは恋していたんだ……
「で、千菜は何してんだ?
お前、買い物係だけど飾り付け係じゃなかったろ?」
飾り付けの花を見ながら
皐月が尋ねた。
「えっと!
りっちゃんに頼まれた!」
「……はぁ」
莉奈こと、りっちゃんとは
あたしの友達。
今日はピアノがあるからとか何とか…言ってて
あたしが代わりにやっている。
あたしが答えると
なぜか皐月は盛大なまでにため息を溢した。
「アホだろ、千菜」
「…え?どうしたの?
確かに期末テスト危なかったけど……」
数学とか
ほんと残念だったし……
ギリギリセーフだった…
そう言うと、どこか納得いかない顔で皐月があたしを見た。
「だから……そうじゃなくて……」
「でも、さっちゃんのおかげで赤点なかった!
ありがとう、さっちゃん」
皐月に教えてもらって
何とかテストは大丈夫だったのだ。
皐月がいなかったら……
…赤点のオンパレード(笑)
皐月の言葉を遮って
あたしはニコリと笑った。
すると頬を赤らめながらも
皐月はあたしを抱き締めた。
「“皐月”だろ、バカ」
「……さ、つき?」
切なそうに
あたしを見つめる皐月の瞳。
なんで……
切なそうなの?
「ねぇ、なんでそんな顔するの?」
抱き締められた腕を離し、
首を傾げながら尋ねた。
しかし、皐月は何も答えず
ただ
また、あたしを抱き締めた。
「千菜がお人好しすぎて同情する」
「へ?
い、意味わかんない!」
別にお人好しでもないし!
それに
同情されるような事をした覚えがない!
「…でも」
「ん?」
「そーいうとこも、好き」
あぁ……ずるい。
不意にそんな笑顔を見せられたら…あたし、何も言えなくなる……
皐月は、ずるすぎるよ…
あたしは恥ずかしくて
俯いてしまった。
「あ…あたしだって……好き、だもん」
「じゃあ、キスして」
皐月の言葉に
思考が停止して、理解した時には耳まで熱くなった。
「むむ、無理だよ!」
「俺のこと、嫌い?」
子犬のようにショボンとした皐月の顔は何とも可愛らしい。
「好きだよ…っ」
「じゃあ、して?
頬っぺたでも良いから」
……え?
頬っぺたでも良いの?
「――――…なぁーんてな」
その言葉と共に
あたしは皐月に引き寄せられ
唇が重なった。