裏口から入ると、校内の静けさとは一変、歓声が場内を包み込んでいた。


「やべぇぞ、鏡夜!!」


舞台袖へ通じる道を歩いていると、愁が血相を変えて心のもとへ走ってきた。


「どうしたの?」


大方予想はついていた。


「あいつにあんな潜在能力があったなんてな・・・その目で、見ろ!!」


「あいつ」が誰を指しているのか、容易に検討がついた。


愁は心を引き連れ、舞台がよく見えるように大勢の生徒達の中に紛れた。


愁と心の存在に気づいた生徒の視線が二人に刺さる。


すると、一人の女子が心の肩を叩いた。


「私、鏡夜くんのこと応援してるから頑張ってね」


「おっ、もうファンがついてんじゃねぇか。でも審査は公平にな」


茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばした愁に、周りの女子は頬を染めた。


その女子達と談笑していると、今まで垂れ下がっていた垂れ幕がゆっくりと上がった。


始まりの合図だ。


「右上見とけ」


愁の視線を辿ると、スポットライトが右壁の二階席の上にある体育教官室に集まっている。


一気に場内が静まり返った。


巨大扇風機の音が耳を通る。


すると、突如今大ブレイクを巻き起こしている邦楽が場内に響いた。


教官室の窓を開けた実がその縁に立った。


実は大きく手を振り、ニコリと微笑むと天井から垂れ下げられているつり輪を掴み、そこからジャンプした。


つり輪は、重力に従った実の体重を支え、実と共に反対側の壁へ向かって流れていく。


後ろでまとめられた銀髪は風と同じ方向へなびいた。


反対側から、実が飛び降りるのを合図に送られたつり輪が向かってくる。


目一杯近づいたところでタイミングを見計らい、サーカスみたく実はそれに移った。