一階から八階まで隈なく探したが、実を見つけることはできなかった。


もしかしたらもう体育館に行ったのかもしれないと、心が踵を返したその時、携帯の震えが制服越しに伝わった。


亜美からだ。


「まだ時間はあるのに・・・」


不思議に思いながら、通話ボタンを押した。


『心、大変大変!!』


もとから高い声をさらに高くしながら喋る亜美の背後から、異常なほどのざわめきが聞こえてくる。


「なんか、やけにうるさくない?」


『水亀実だよ!』


「もう出番きてたんだ」


『それが!めちゃくちゃ凄かったの!』


飛び上がりながら説明している亜美の姿が目に浮かぶ。


「で?何やったの?」


『それは見たほうがいいって!アンコールが凄すぎてもう一回やるから』


まるで優勝者が決まったかのような言い方。


とりあえず心はライバルを観察すべく、体育館へと戻った。