「大丈夫か!?」


今日初めて見る麗の顔。


端整な顔はいつもと少し違って見えた。


決して悪い意味ではない。


「大丈夫だよ」


愁は左手でフェンスを掴みながら、右手を麗に差し出した。


もう少しの距離なのに、僅か数センチが届かない。


指先が触れた。


勢いをつけようと思った麗は、体を左右に揺らした。


そして、タイミングを見計らって手を伸ばしたその時、逆風が麗を襲った。


掴み損ねた左手は宙を彷徨い、右手も手汗で滑ってしまった。


両手は行き場を失くし、麗を支えるものは全てなくなった。





今度こそ落ちる





そう思った誰もが眼を瞑ったが、一向に衝撃音がくる気配がない。


顔を上げた人々が見たのは、フェンスに掴まっているのが麗から愁へと変わっている光景だった。


愁の左手には麗の右手が繋がっていた。


安堵の溜息も聞こえるが、状況は悪化している。


鍛えられているとはいえ、愁の左手左腕一本で男二人分の体重を支えるのは、厳しかった。