麗は写真を懐にしまうと、話を続けた。


「物事には程度というものがある。それを身につけなければ、ただのいきがってるバカになるよ」


ということで、麗によって心はミリ単位のレクチャーを受けた。


麗の中学生時代の古着を譲り受け、心の男としての身だしなみが着々と進められた。


服装が終われば歩き方。


見た目に関することは全て、麗から伝授された。


「OK。今日はここまで」


気づけば二時間経過していた。


「今日教えたことは忘れちゃダメだよ。忘れたら・・・トイレ掃除ね」


冗談ではなさそうだ。


意識しながら頑張ろうと、心の中で誓った。







「痛っ・・・」


突然、麗の歪んだ声が教室に響いた。


心が麗を見ると、左手で左眼をおさえている。


「どうしたの?」


心が近寄ると、麗は鞄を指差した。


「鏡取って」


心は言われたとおり、鞄から鏡を取り出すとそれを麗に渡した。


「あー、コンタクトずれた」


コンタクトを取った麗を見て心は驚いた。


「えっ・・・青?」


麗の眼は、沖縄の海を想わせるように青かった。


「カラコンだったんだ」


心が呟くと麗は常備している予備の茶色のコンタクトをつけた。


「その眼、綺麗なのに」


「俺、この眼嫌いだから」


常に無表情な彼の顔がわずかに歪んだ。


「ほら、もう帰ろう」


機嫌を損ねたらしい麗は、帰り道一言も喋らなかった。