今は2006年7月20日(木)。
ここは渉が通っている高校。6時限目の数学の時間。渉の隣の席にいるのがさっきの若い女性の声の主だ。

彼女の名前は一ノ瀬 愛梨(いちのせ あいり)。
ミドルヘアーの普通の女子高生である。やや茶髪ぎみ。渉とは中学生からの友人である。

「起きて。」

愛梨の声でやっと目が覚めた。
机に覆いかぶさるように寝ていた渉は顔を上げ、目を擦って大きな欠伸をした。教室はずっと静まっている。愛梨が自分の方を見ているのを渉は気付いた。

「なに?」

まだ眠たげな顔をしている。そして教室が静まっているのにもやっと気付いた。

「早く答えて。」

愛梨は渉の教科書の問題を指で指して言った。すると間もなく数学の教諭の石脇が言い放った。

「こら、春日。また寝てたな?」

渉は解答するよう指名されていたのだ。

「しょうがない奴だな。もういい、篠崎答えろ。」

石脇はチョークで渉の二つ後ろの席の男子生徒を指した。