「渉さんにはこの世界を覚えておいて欲しいのです。そしてこの平和な世界を救って欲しいのです。」

女性は渉の目から目線を外そうとしない。渉はさらに質問をした。

「救う?オレに何をしろって言うんだ?冗談もほどほどにしてくれよ。」

渉は目線をビル街のほうに移した。

「私は冗談を言うために渉さんをこんなところまで連れてきた訳ではありません。」

女性の顔はちょっと怒ったように更に真剣になっていった。
それにやや押されぎみで渉は一歩後ずさりをした。

「ゴメン、悪かった。」

女性の怒りを抑えるため一応、渉は謝った。

「それで根本的になんでオレがここに連れて来られたんだ?そこをはっきりと教えてくれ。」

女性の本気に応えるべく渉もやや本気になって話を聞き始めた。それに気付いたのか女性は少し安心したように冷静に話し始めた。

「私たちは数年前にこの世界の異変を察知しました。それはこの世界が無くなりかけている事です。近代科学の発展により時空間の移動が可能になった私たちは過去を辿りこの原因をノミつぶしのように消してきました。」

まだ真剣な話は続いている。渉も必死に理解しようとしている様子だ。

「しかしその中には私たちには解決できない問題が少数ですがいくつか存在しました。それを渉さんに解決して欲しいのです。」

女性は渉の目をもう一度見た。そこで渉はそれに対しての意見を言った。

「ちょっと待てよ。アンタは過去に戻れるんだろ?だったら過去の全てを把握できるはずじゃないか。それなのに解決できないことがあるのか?」

渉はこれでも高校生だから一般常識程度は理解できる。しかしこの質問の解答はあまりにも難しかった。

「最初は私たちもそう考えてきたのですが、ある学者の先生のお話によると『見る視点によって現在と未来は変わる』というのです。私もその専門ではないので良く分かりませんが、この世界が渉さんが行き着く未来ではない可能性もあるということです。」

もうこの時点で渉は頭が混乱し始めていた。渉はとりあえず分かったように頷いていた。