渉が肩の力を抜き、息をもらした矢先、暗闇の中で聞いた高い声が今度は渉の背後からしっかりと聞こえた。
渉はその声に振り返った、最初に聞いたときは暗くて姿は見えなかったが今度は姿がはっきりと見えた。

そこには、紅い口紅をした長い灰色の髪を生やした女性が青色の純和風の着物をまとって渉をじっと見ていた。瞳の色はブルー。

その女性の背景には発展した都市の象徴のビル群が所狭しに並んでいた。
そこではとても鳥の歌う声は愚か、川の音さえ聞こえない。大衆のざわめきと車の騒音ばかりが聞こえる。

渉は自然と呼ばれるようにその着物を着た女性に少しずつ近寄った。女性は渉が隣まで来るとビル街の方に振り返った。渉も仕方なくビル街の方に目を向けた。

そしてやっと女性が口を開いた。

「今は、渉さんのいた世界から100年後。人類と自然が始めて共存できた歴史上初の世界です。そしてここは渉さんの住んでいる長野県は松本。」

女性はまだ向こうのビル街を見ているが、渉は思いも寄らない言葉の連続に戸惑いを隠せなかった。

「な、何を言ってるんだ?正気か?」

渉は焦りが伴いながらも喋った。突然、訳も分からず目の前に広がった世界に動揺を隠し切れずにいた。

「理解できないのも無理はありません。しかし理解してもらわなければ困るのです。」

女性はやっと渉のほうに顔を向けた。女性はとても冗談を言っているとは思えない真顔で渉に語りかけた。その言葉さえ理解に苦しむ渉は単純な言葉で質問した。

「どういうことだ?」

まさに直球ストレートの質問。女性は一息、間をつくってまた話し始めた。