「私、こっちだから」
 「じゃあね。気をつけてね」
 「ばいばい」
 長いまっすぐな髪の毛を揺らして、木原さんが遠くなっていく。
 一緒に歩いてたときは意識してなかったけど、木原さんって可愛い子だよなぁ。
 目が大きくて、まつげが長くて、ほっぺたと唇が……
 「あーっきーらぁーっ!」
 「わぁっ」
 突然後ろから飛び付かれて、僕はびっくりして考え事を中断した。
 「なんだよ~いつもの事なんだからそんなに驚くなって」
 そう言って僕の背中に寄りかかってきたのは、僕の家の隣に住んでる幼なじみで同じ部活の鈴村悠弥(すずむらゆうや)くんだ。
 「突然飛び掛かってきたら誰だってびっくりすると思うよ……」
 「そうか?俺は彰が飛び掛かってきても驚かないし、嬉しいけど」
 言いながら、悠弥くんが離れる。
 「彰は嫌なの?」
 「うーん、少し嫌かも」
 「そっか」
 悠弥くんは少し寂しそうな顔をした。
 「ね、彰、一緒に帰ろ」
 すぐにいつもの笑顔に戻って、悠弥くんが僕の手を引っ張る。
 「いいよ。ただ、痛いから手引っ張らないで」
 「あっ、ゴメンゴメン」
 あわてて悠弥くんは手を離し、僕らは歩き出した。
 「彰はさぁ、ひなちゃんのこと好きなの?」
 「えっ!?」
 丁度さっきまで木原さんのことを考えていたのを思い出して、思わず耳まで真っ赤になる。
 「おっ?図星かぁ~?」
 「えっ!?あの、その……」
 なんて答えたらいいかわからない。
 悠弥くんがまた寂しそうな顔をした。
 「俺さ、彰のこと好きだよ」
 「僕も、悠弥くんのこと大好きだよ。大切な友達だもん」
 「友達、か」
 悠弥くんはうつむいてしまった。
 「悠弥くん?」
 「ん、何でもないよ。心配かけてごめん」
 悠弥くんはそう言って笑うけれど、なんだか無理をしている気がする。
 「悠弥くん、どこか痛いの?」
 「いや、痛いとこはないけど」
 「我慢し過ぎると体に悪いよ。今日はゆっくり休んでね」
 「ありがと。じゃ、俺こっちだから」
 「じゃあね。また明日」
 僕は悠弥くんと別れて、家に入った。