僕は女の子と社会科準備室を出て、しっかり施錠した。
 鍵を返して女の子のことを先生に話さなくちゃと思ったので、僕らは職員室へ向かって歩いている。
 女の子は木原ひなという名前で、僕と同じ学年で、美術部員であることがわかった。
 木原さんの描く絵は美術部の顧問の先生に気に入られていて、小さい頃から有名な先生に絵を習っているお嬢様の「鷺沼さん」に勝手にライバル心を燃やされて迷惑しているそうだ。
 鷺沼さんは校内の女子の間では有名らしい不良グループのメンバーでもあって、数週間前の全国コンクールで入賞出来なかったのはお前のせいだ、お前さえいなくなれば……等と言って、不良グループの女子数名で下校途中の木原さんをさらい、社会科準備室に閉じ込めた、ということらしい。
 「私、絵を描くのが大好きなんだけど、美術部にいれば鷺沼さんに怖い目にあわされちゃうし……どうしたらいいのかわからないの」
 木原さんがしょんぼりとうなだれながら言った。
 木原さんが絵を描くのが好きなのは、会話の端々からすごく伝わってくる。
 だから、何とかしてあげたいんだけれども。
 う~ん、何かないかな……
 あ、良いこと思い付いたかも。ウチの部活動に誘ってみよう。
 「そうだ。木原さん、漫画みたいな絵、描ける?」
 「漫画みたいな絵?えっと、キャラクターの絵は自信ないけど、背景なら描けるかも。どうして?」
 「僕、文芸部……とは名前だけの、実質ただの漫画部やってるんだけど、いま丁度人手が足りなくて。漫画みたいな絵で良ければウチで描けるんだけどどうかな、一応女子も多いし」
 「文芸部ってそんな活動してるんだ。私、ちょっと興味あるかも」
 おっ、いい感じになびいてきたぞ。
 「じゃあ、気が向いたら部室に来てみて。明日部長に話しておくから。部室は旧校舎の5階だよ」
 少し考えるような間が空いたあと、木原さんが笑顔で「わかった。明日からちょっと、そっちでお世話になるね」と言った。