「この辺り、だよな……」

 地図と道とを見くらべながら一人歩く姿は、はたからすると結構間抜けかもしれない。

(卒業早々なにやってんだろ、僕)

 浜に向かう道がこれで間違いないことを確認し、地図を後ろポケットに突っ込む。

 そこには一枚の葉書。

 暇だからって郵便受けなんて開けるんじゃなかったと、いまさらながらに思う。

 ちょっと目を通し、ふたたび葉書をポケットに入れ……――

 ふと、何か変な感じがした。

 どう変かと聞かれたら困るけれど……とにかく妙な違和感みたいなものがモヤモヤ、っと頭の中に浮かんで消えない。

 そのモヤモヤが晴れるよりも先に、目的地の夕凪ヶ浜は僕の前に姿を現した。

 さすがに三月の海にくるような変わり者はいないらしく、辺りに人気はまったくない。

 おかげで彼女をすぐに見つけることができた。

 そう。

 すぐに見つけたのだけれど、僕はすぐには動き出すことができなかった。

 それはとても不思議な光景だった……。

 誰もいない砂浜で独りたたずむ少女。

 暮れていく夕陽が落とす哀しげな影。

 ゆったりとした白地のスカートが茜色に染まって浜風になびき、肩より少し下にまで伸びた髪と優雅にワルツを踊っていた。

 どのくらいの間僕はその後ろ姿に見入っていたのだろう。

 どこからか聞こえてきた海鳥の声にハッ、と気付いた僕は少しばかり大袈裟に足音を立てるようにして彼女に近付いた。